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Rust における return文の LLVM IR 表現について

Posted on:2016年4月13日

以上のような特徴を持つ言語はどういう感じでコンパイルされるのか知りたくて,Rust について調べてみました.

Rust では以下の様なことが出来ます.

fn f() {
  let x = if cond {
    return None;
  } else {
    1
  };
  ...
}

Scala とかもできると思います.cond が真だった場合は,x の値を返すのではなく,関数から抜けてしまうという意味です.

これを Rust ではどんな LLVM IR に落とし込んでいるのか.

return 文がない場合

fn noreturn(x: isize) -> isize {
  x
}

最も単純な場合です.この場合,生成される LLVM IR は,

define internal i64 @\_ZN4hoge8noreturn17h811bf1a871f85432E(i64) unnamed\_addr #0 {
entry-block:
  %x = alloca i64
  store i64 %0, i64* %x
  %1 = load i64, i64* %x
  ret i64 %1
}

となります. 名前がマングルされていますが,上記の noreturn 関数です. やっていることは単純で,第一引数を読み込んで返すだけです.

return に相当する文が一つのみの場合

fn onereturn(x: isize) -> isize {
  let y = if x == 0 {
    1
  } else {
    x
  };
  return x;
}

実際に値を返す部分が一箇所しかない場合です.途中に分岐があっても最終的に一箇所になっていれば多分同じ結果になります.

define internal i64 @\_ZN4hoge9onereturn17h8b718f32daa6a379E(i64) unnamed\_addr #0 {
entry-block:
  %x = alloca i64
  %y = alloca i64
  store i64 %0, i64* %x
  %1 = load i64, i64* %x
  %2 = icmp eq i64 %1, 0
  br i1 %2, label %then-block-18-, label %else-block

then-block-18-:                                   ; preds = %entry-block
  store i64 1, i64* %y
  br label %join

else-block:                                       ; preds = %entry-block
  %3 = load i64, i64* %x
  store i64 %3, i64* %y
  br label %join

join:                                             ; preds = %else-block, %then-block-18-
  %4 = load i64, i64* %x
  br label %clean\_ast\_10\_

return:                                           ; preds = %clean\_ast\_10\_
  ret i64 %4

clean\_ast\_10\_:                                    ; preds = %join
  br label %return
}

return という BasicBlock ができています.これは return 文が現れると作られるよう?です. で,その中では単純に x に該当する値を返しています.

最後の return x; 文を 単純に x に置き換えてみると,

define internal i64 @\_ZN4hoge9onereturn17h8b718f32daa6a379E(i64) unnamed\_addr #0 {
entry-block:
  %x = alloca i64
  %y = alloca i64
  store i64 %0, i64* %x
  %1 = load i64, i64* %x
  %2 = icmp eq i64 %1, 0
  br i1 %2, label %then-block-18-, label %else-block

then-block-18-:                                   ; preds = %entry-block
  store i64 1, i64* %y
  br label %join

else-block:                                       ; preds = %entry-block
  %3 = load i64, i64* %x
  store i64 %3, i64* %y
  br label %join

join:                                             ; preds = %else-block, %then-block-18-
  %4 = load i64, i64* %x
  ret i64 %4
}

となります. return ブロックが消えていますね.なので return 文があると return ブロックが作られる、で良さそう?

複数のパスから値を返す

fn multireturn(x: isize) -> isize {
  let y = if x == 0 {
    return -1;
  } else {
    x
  };
  y
}

さて,では最初に述べた,if の分岐内にある return についてです. これは,

define internal i64 @\_ZN4hoge11multireturn17had379e8ce5a18f08E(i64) unnamed\_addr #0 {
entry-block:
  %sret\_slot = alloca i64
  %x = alloca i64
  %y = alloca i64
  store i64 %0, i64* %x
  %1 = load i64, i64* %x
  %2 = icmp eq i64 %1, 0
  br i1 %2, label %then-block-18-, label %else-block

then-block-18-:                                   ; preds = %entry-block
  store i64 -1, i64* %sret\_slot
  br label %return

else-block:                                       ; preds = %entry-block
  %3 = load i64, i64* %x
  store i64 %3, i64* %y
  br label %join

join:                                             ; preds = %else-block
  %4 = load i64, i64* %y
  store i64 %4, i64* %sret\_slot
  br label %return

return:                                           ; preds = %join, %then-block-18-
  %5 = load i64, i64* %sret\_slot
  ret i64 %5
}

こうなりました. まず,return 文があるため?,return ブロックが作られています. しかし今回は,パスによって返すものが違います.(値が違うという意味ではなく,同じ変数ですらないという意味です…)

よく IR を読むと,関数の頭で %sret_slot という名前でスタック領域を確保していることがわかります. そして,return ブロック内では,これを読んできて返しています.

さらに,if 文の then 節にあたる,then-block-18- というブロックでは,%sret_slot に値を格納して return ブロックへジャンプしています. else 節のあとの部分 (join ブロック) でも同様に, %sret_slot に値を格納して return ブロックへジャンプしています.

まとめ

というわけで,様々な Rust コードを LLVM IR に変換して見てみた結果,複数のパスから値を返す場合は,「ローカル変数として返り値を定義し,そこに返したい値を格納してから return に goto」という形になっていることがわかりました.

(ほとんど LLVM IR を乗っけるだけになってしまった…)

ちなみに …

if 文の返す値をそのまま返す

fn ifreturn(x: isize) -> isize {
  if x == 0 {
    1
  } else {
    x
  }
}

Rust に慣れていないとちょっとわかりにくいですが,x == 0 の場合は 1 を返し,そうでない場合は x を返す関数です.

これは,

define internal i64 @\_ZN4hoge8ifreturn17hcdaab6e376d6c95cE(i64) unnamed\_addr #0 {
entry-block:
  %sret\_slot = alloca i64
  %x = alloca i64
  store i64 %0, i64* %x
  %1 = load i64, i64* %x
  %2 = icmp eq i64 %1, 0
  br i1 %2, label %then-block-15-, label %else-block

then-block-15-:                                   ; preds = %entry-block
  store i64 1, i64* %sret\_slot
  br label %join

else-block:                                       ; preds = %entry-block
  %3 = load i64, i64* %x
  store i64 %3, i64* %sret\_slot
  br label %join

join:                                             ; preds = %else-block, %then-block-15-
  %4 = load i64, i64* %sret\_slot
  ret i64 %4
}

こうなります.やっていることは上記の例たちとあまり変わりません. しかし,return 文がないので?,return ブロックが作られていません.が, %sret_slot は定義されていますね…

これはどういうことなんでしょう.rustc のコードを読むべきなのかもしれませんが,イマイチ内部処理が想像しにくいです…

普通に翻訳していったら,

let x = if x == 0 { 1 } else { x };
x

と同じ感じになる気がするので,%sret_slot という名前が出てくる余地は無い気がするのですが…(実質同じ処理ではあります) 分岐が直接返戻値になる場合は特別扱いしているのかな?